すなめりくんの読書ブログ

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高校の教員です。読んで良かったと思う本を紹介していきたいと思います。

人は自然とどのような関係を築くべきか?『人びとの自然再生』

破壊ではなく、再生へ。

地域、人と人との関係、そして社会の再生にもつながる希望の書。

歩く、見る、聞く 人びとの自然再生 (岩波新書)

歩く、見る、聞く 人びとの自然再生 (岩波新書)

 

 

自然と社会の未来の形は、どういうものが望ましいのだろうか。自然をめぐる各地のさまざまな〈いとなみ〉を、歩き、見て、聞いて、考えた。人と自然の相互関係とはどういうものか。自然をめぐる合意形成とは? 災害時や都市部での実践も含めながら、自然とコミュニティのこれからを活きいきと描き出す。

(本書カバーより引用)

 

 本書は、人々と自然の関係のあり方を考えます。そして、それを通して、私たち人間の未来を考える1冊です。

 

 

 この本を僕が読んで、オススメしたいなと思った対象は、

 

・地域の自然(動物)保護運動などに関心のある人。

・地域の生活や伝統文化などを継承していく教育活動に関心のある教員。

 

です。後者のほうは疑問に思われるかもしれませんが、本書で紹介される「聞き書き」という取り組みは、小学校から高校までどの校種でも行える非常に実践的な取り組み(実際に学校現場でいくつも実践されているよう)なので、読む価値があると思います。

 

 本書は、専門用語などもほとんど使わず、豊かな人と自然の関りをどのように保全し、次世代に継承することができるか、という問題について、具体的な地域での取り組みにおける当事者の発言などをたくさん紹介しています。そして合意形成までの道のりについて実践的に書いている点に特徴があります。

 

 

 

 以下、本書の議論の一端をご紹介します。

①自然(を守る)とは?

②コモンズと合意形成

③人と自然の未来へ

 

 

 

①自然(を守る)とは?

 「自然保護」という言葉からイメージされる自然はどんな感じですか?

きっと多くの方は人間が介入せずに存在している森、小川などを連想されるのではないでしょうか? もちろん、そのような「原生自然」もあるかもしれないけれど、ほとんど全ての自然は人間の「いとなみ」と深く関係のあると筆者は言う。

 その一例として、日本列島の自然の歴史に注目をする。僕たちは自然保護というと、森が減ってきて、木を植えなければって考えがちだけど、それは不正確で、現代は歴史期にみても森がめちゃくちゃ多い時期だそう。つまり、森が増えていると。

 じゃあ森が増えたかわりに減ったものは何か?

それが「草地」。江戸時代は日本列島の約10%強が草地だったが、今ではなんと1%に満たないと…。

 なんで、森が増えて草地が減ったのか?

高温多湿を特徴とする日本列島の自然において、草原は放っておくと森になる可能性が高い。にもかかわらずかつて1割程度の草原があったということは(略)人間の活動が大きかった。人間が刈り取ったり、焼いたり、あるいは、家畜を放牧することで草原は維持されてきた。(p21)

つまり、生態系の多様性において、重要な役割を果たしている「草地」の維持のために、人間の活動は多大な貢献をしていたということ。

 自然とは、人間の手つかずの原生自然ではなく、人と自然の相互関係の上に成り立っているもの。僕たち人間と自然を分けて考えるべきではない。自然と人間を切り離して、自然を保護するのではなく、人間を含めた生物のいとなみとの相互関係の中に存在する自然を保護する。

 このように筆者は自然を捉えています。

 

 

 

②コモンズと合意形成

 筆者はコモンズの定義を以下のように説明している。

コモンズとは、地域社会が一定のルールのもと、共同で持続的に管理している自然環境である。また、その共同管理のしくみそのものを「コモンズ」と言ってもよいかもしれない。

 つまり、地域内の問題は、地域の事情に一番詳しい地域住民が中心となって資源管理をすることが大切であると言ってます。そしてコモンズにおいて最も大切なのは、「納得」を積み重ねることだと筆者はいいます。

 この合意を形成するための手法として、順応的管理、ワークショップなどを用いた豊富な実践例が紹介されています。

 

 

 

③人と自然の未来へ

 大きな物語ではなく、小さな物語に注目することが大切だと言います。僕たちが環境問題を語るときはどうしても、地球温暖化、森林破壊、景観保全などの大きい問題を語りがちになってしまいます。もちろんそういう問題は、重要ではあるけれど、ときに小さな物語を抑圧することがあると筆者は言います。

 その例として、

生物多様性保全を目的に設置された自然保護区が、これまでその地区を利用していた住民を追い出してしまう。住民の生活に制限がかかり、貧困化していく。さまざまな思いで森づくりに集まってきた人が「生物多様性保全」につきあわされ、やがてその活動からも遠ざかってしまう。

 そうならないために、

人びとが語る自然、人びとが話す生活、そうしたものの中に自然再生の形がある。この本は、そうした小さな物語を支援し、そこから地域の自然を再生されることを後押ししたくて書かれた。

 

 

  本書を読んで良かったと僕が思ったのは、1つは自然とは何かということに関して、良い意味で僕の常識を壊してくれたこと。自然保護は自然だけではなく、人の生活を含めて考えることが大切という考えはとても面白かったです。

 また、保護活動に関して、学術的な理論ではなく、実際の問題に関する取り組みを実践的に紹介されていた点はとても良かったです。例えば僕が関心のある地域猫活動に将来関わるときに、この本で学んだ合意形成に関する視座は大きく活きると感じました。

 

ゴリラから幸せな生き方を学ぶ『ゴリラは戦わない』

「オスは背中で自分を語る」

「交尾はメスがオスを誘う」

「石橋を叩いても渡らない」

 ゴリラの魅力が沢山つまった1冊をよければ読んでみてください!

ゴリラは戦わない (中公新書ラクレ)

ゴリラは戦わない (中公新書ラクレ)

 

 

ゴリラの世界は、誰にも負けず、誰にも勝たない平和な社会。石橋を叩いても渡らない慎重な性格で、家族を愛し、仲間を敬い、楽天的に生きる。人間がいつのまにか忘れてしまった人生観を思い出させてくれる「ゴリラ的生き方」とは何か? 京都大学総長と旭山動物前園長が、ゴリラの魅力について存分に語り合った話題の1冊!

 

 

 本作は、京大総長でゴリラ研究を長年してきた山極教授と、閉園の危機にあった旭山動物園を再建した旭山動物園元園長の小菅さんの対談です。

本書は単なるゴリラすげー、という本ではありません。もちろん、そういう面白い内容もたくさんありますが、この本は

 

・ゴリラの生き方から幸せな生き方を考える

・動物園の役割とこれからの発展性を考える

 

ところが話のメインテーマとなっています。

僕が読んで面白いと思った内容を紹介します。

 

 

あえて勝とうとしない、でも負けないゴリラ社会

山際 ある程度年齢がいったシルバーバック(ゴリラ)になると、負けるわけにはいかないから、闘い合うとお互いに噛み合うわけです。(略)激しくやり合うと死に至るケースもある。

 だからメスや子どもたちが仲裁に入るわけですね。そこがゴリラのルール。子どもを背中に乗せたメスや子どもが「まあまあ」と間に入ると、オスたちは戦わずして、一応これで収めておくかと。メスの顔に免じて、子どもたちに免じて喧嘩は止めようとなるわけです。これがゴリラの共存のルールです。だからゴリラには「負けた」という姿勢がない。

小菅 ほお~。

山極 そうすると、最後まで戦わないんですね。ゴリラは勝敗をつけたくないから。結局は「しゃあないな」という形で引き分ける。ここで重要なことは 、両方がメンツを保ちながら引き分けられるということ。だから勝敗をつけなくていいわけですよ。

 それと比べてニホンザルはそうはいかない。絶対に勝敗をつけないと収まらない。そういう場合、周りのニホンザルはどうするかというと、みんな強い方に付いて助けるわけです。

(略)

先ほどの話に戻すと、要するに負けまいとする、というか、そもそも負けるという観念、あるいは社会的なルールというものがない。それはつまり、勝つという観念や社会的ルールもないわけですよ。負けるという観念があれば、勝つという観念があるわけですよ。でも、ゴリラにはそれはない。

 我々人間は、負けまいとする行為を見て、こいつは勝とうとしていると思ってしまう。でも「負けまいとする姿勢がとても立派だと感じる心」は、「勝とうとする、あるいは勝った者を称賛する心」よりも、強いんじゃないかと。

小菅 そうですね。

山極 これ、微妙に違うんですよ。

小菅 違いますね。

 そして、この負けないとするゴリラの姿勢は、相手の上に立つことではなく、相手と同等の立場を築くということだと山極さんは言います。このことに関して、

山極 これはメスのゴリラでもそうです。京都市動物園のゴリラ、ゲンキとその母親のヒロミの二頭のメスがいましたが、ヒロミはものすごい負けん気が強いですから、ヒロミより2倍も大きいオスのゴンが力を振るおうとすると、もう食ってかかるわけですね。

 ゴンは、たじたじとなって、「う~ん」といって引き下がる。オスとメスでは体力が違うわけだから、ヒロミのことをねじ伏せようと思えば簡単な筈なんだが、それをやらない。それだけ、お互い体の差は違っても、対等であるということを凄く意識している。

(略)

人間がそれを見て、「カッコいい」と思うのは、我々人間の社会もそういう道を歩んできたきたからだと思うんです。

 なるほど、僕たち人類は、チンパンジー型社会ではなく、ゴリラ型社会だと。少なくとも、そうなろうと努めているということですね。

しかし、あなたは現実の人間社会がそうなっていると断言できますか?

(僕はぜんぜんできません(笑))

山極 「負けたくない」という気持ちを大事に育てないと。でも、世の中には、「勝ち組になるか、負け組になるか」みたいなことを、大人が気にするじゃないですか。

小菅 そうですよね。最近その価値観が蔓延していますよね。 

 いわゆるサル的な、勝ち負けをつけたがる価値観の蔓延というものによって僕たちの社会はどのように変化したのでしょうか?

山極 だから親は、子どもが幼い頃から勝ち組の仲間入りができそうな「いい学校」に合格するために頑張ったり、負け組になったらダメだからということで、せかせかと子どもを引っ張りまわして、浅ましいですよね。

 もともと、地域社会と言うのは、バランスを取りながら、適正な規模でつくられていったと思うんです。ところがここへ来て、それが崩れて、家族といった、身近な支援組織もだんだんと身の回りから消え去って、近所付き合いもしなくなってしまった。結果、孤独感を味わう人が増えたんじゃないか。

 頼る人がいないから、自分が強くならなければいけないという状況に置かれると出てくるのが、「勝たないといかん」という考え。ある意味、焦燥感に晒されている気がしますね。だから、考えてみれば、「負けなければいい」というのは、余裕がある社会なのですよ。

小菅 そうかもしれません。「負ける」ということで生存権もなくなってしまうような社会だったら、勝ち続けなければいけませんからね。

山極 そうなんですよ。だからそのために、将来に対して「保険」をかけて、自分が負けなくてもいいような準備を、今からしているわけでしょ。

(略)

 だって、人々の信頼関係をきちんと築けていれば、歳を取ったところで心配ないわけだし、保険なんかかける必要もないわけでしょう。そもそも保険をかけるということは、自分が病気になった時、あるいは怪我をした時に、周りの人に迷惑をかけたくないとか、自分が十分なケアを受けられるようにとか、それを心配するわけです。

 ところが、昔はそういうことをみんな心配しなかった。それは、誰かが自分のことも気を配ってくれる筈だという自信があったからです。つまりはみんなが対等だったわけです。

 ところが現代社会は、下手をすると自分が見捨てられてしまうかもしれない。だから今のうちに自分が稼いだお金の一部を使って、その心配を払拭しておきたいという。結局、人を信用できなくなっちゃっているわけですよね。それが、日本社会が孕んでいる落とし穴だと思いますよ。

 

もちろんゴリラの生き方をまんま実践するなんて無理です。しかし、よりよい幸せのために、ゴリラの振る舞いを通して生き方を見つ直すことは大切ではないかと思います。

上記の内容の引用の部分の内容と似たようなことを内田樹さんが以下の本で仰っていました。よければこちらもどうぞ!

sunamerikun.hatenablog.com

 

 

 本書では紹介しきれませんが、本当にゴリラはカッコよかったです。こんなカッコイイやつに僕もなりたい!!ゴリラの魅力が詰まった1冊、よければ読んでみてください。

 

 

 

余談ですが、動物の意外な一面について fun 的な面白さをより強く求めるのであれば以下の書籍をおすすめします。書店で少し立ち読みしましたが、え?マジで!!という内容が盛り沢山で面白かったです。

子供に言えない動物のヤバい話 (角川新書)

子供に言えない動物のヤバい話 (角川新書)

 

 

 

 

【猫が恋のキューピット】 『猫弁-天才百瀬とやっかいな依頼人たち-』

猫に囲まれた弁護士事務所!

猫が恋のキューピット!

心温まる1冊をよければどうぞ!

 

 

猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち (講談社文庫)

猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち (講談社文庫)

 

お見合い30連敗。冴えない容貌。でも天才。婚活中の弁護士・百瀬太郎は猫いっぱいの事務所で人と猫の幸せを考えている。そこに舞い込むさらなる難題。

 「霊柩車が盗まれたので取り戻してほしい」。笑いあり涙ありのハートフル・ミステリー、堂々誕生! 満場一致で第1位、TBS・講談社ドラマ原作大賞受賞作。

 

 

 

  東大法学部主席卒業、頭脳明晰だけど見た目は冴えない、弁護士事務所の黄色いドアを開けたら猫弁先生と猫ちゃんが迎えてくれる。猫ちゃんに囲まれて相談が できる弁護士事務所に舞い込む依頼(ペット関連が多い)をゆる~く解決しつつ、一癖も二癖もある人々と素敵な触れあいが描かれています。

 本書は6つの短編からなっています。それぞれ、特に関係なさそうな出来事が、実は伏線となって物語終盤に交差します。(こういう感じの「ほっこり」する話が僕は好きです)

 本書は、人が死なないミステリー小説です。ミステリー小説といっても、事件を解決する部分にミステリー性はあまりありません。ひょうひょうと事件を解決して いく過程で各短編で散りばめられた伏線が終盤になって素敵に、意外性をもって交差する部分がミステリーちっくという感じです。

 

 

 

ちなみに続編も出てるのでそちらもおすすめです。(僕は2作目までしか読んでないのですが、また読みたいと思います。)

 

猫弁と透明人間 (講談社文庫)

猫弁と透明人間 (講談社文庫)

 
猫弁と指輪物語 (講談社文庫)

猫弁と指輪物語 (講談社文庫)

 
猫弁と少女探偵 (講談社文庫)

猫弁と少女探偵 (講談社文庫)

 
猫弁と魔女裁判 (講談社文庫)

猫弁と魔女裁判 (講談社文庫)