学力格差の現状を知る【教師・教員志望の学生におすすめの1冊】【大阪府教員採用試験を受ける学生におすすめ】
「つながり格差」が学力格差を生む
著者:志水宏吉(大阪大学教授)
本書は、今の日本の教育課題、その中でも学力格差の拡大について大阪大学の志水さんが統計などの客観的な指標などを用いて、丁寧に説明しています。
まず初めに、なぜ、大阪府教員採用試験を受ける学生におすすめしているのか、について簡単に説明します。それは、この本のテーマである学力格差が特に都市部(大阪)で大きな問題になっていることが本書の中心的な内容の1つとなっています。そして、この問題を乗り越えるために、「効果のある学校」、「力のある学校」という考えを本書で提示し、それを実践している例として、大阪府内の学校の取り組みが紹介されているからです。
また、学力格差の取り組みの歴史として、大阪府(関西)がこれまで取り組んできた同和地区(被差別部落)での取り組みとの関係性に言及しています。
ですから、面接において、「地域との取り組み」や、「なぜ大阪府を志望したのか」という必須の質問を答える際の予備知識として非常に役に立つと思ったので、本書を推薦しました。
本書の流れとして、まず日本の学力格差の歴史と変遷について分析をします。その分析を通して、現代の学力格差には、「つながり格差」という問題が潜んでいると考え、その仮説をもとに、学力格差の原因や、取り組みについて話を展開していきます。
志水さんの日本の学力格差に関する分析で特に興味深かったものをいくつか紹介したいと思います。
まず、全国学力調査において、昭和(1960年代)と平成(2000年以降)の結果を比較してすると…
昭和では、好成績の「都市」と低調な「いなか」という傾向が顕著だった一方、平成では、秋田を始めとして東北、九州の「いなかの県」が躍進し、1960年代には良かった「大都市」大阪が没落していました。
昭和の結果は、
都市といなかの生活環境の圧倒的な「格差」が、子どもたちの学力に圧倒的な影響を与えていたのである。
平成の結果を志水さんが分析したところ興味深い結果が出てきました。
平成の場合は、経済的格差が要因として存在する点は昭和の場合と同じだったようです。しかしながら、昭和の時代にはあまり相関が強くなかった、「離婚率」、「持ち家率」、「不登校率」が平成の結果には大きな相関を示していたのです。
この傾向はいったい何を意味するのか?
この問いから志水さんは「つながり格差」という仮説を提唱します。これを簡単に説明すると、
離婚率の低さに示されるような家庭・家族と子どものつながり、持ち家率の高さにあらわれるような地域・近隣社会と子どものつながり、不登校率の低さに結びつくような学校・教師と子どもとのつながりが、それぞれに豊かな地域の学力は高い。それに対して、それらのつながりが脅かされている地域の子どもたちの学力は相対的に低い
というものです。
以後はこの仮説をもとに、学力格差の原因や対策について議論を進んでいきます。
この仮説を踏まえて、なぜ秋田県などの「いなか」の県の学力が高い傾向にあるのか、という点についての分析はとても面白かったです。
最後に、非常に興味深かった、分析結果を1つ紹介します。
以下は、2006年に大阪府で実施された「大阪府学力等実態調査報告書」での中学3年生の得点分布です。
グラフから見てわかるとおり、台形に近い形で得点分布が展開されていることがわかります。これを見る限り、学力格差はあまりないようにも思えます。
そこで志水さんは、これを塾に通っている中学生と通っていない中学生に分けて調べました。その結果が以下のグラフです。
その当時、英語はまだ中学校に入って初めて学習する教科であった。この調査は中3の4~5月に行われたものであるから、中1~2の2年間で、塾に行っていればまだ点数はとれるものが、塾に行っていない生徒たちは「ほとんど点をとれない子が続出する」という結果となっていることが示されたのである。この結果に対しては、府教委の面々も大きなショックを受け、当時出版された報告書には、このグラフが掲載されることはなかった。
様々なデータをもとに日本の教育格差について知ることができ、教育格差の是正のために行われている取り組みを学べる本です。
以下の本もあわせてお勧めします。(特に小学校の教員を志望している人、大阪府で教員をしようと考えている人にオススメです。)
公立小学校の挑戦―「力のある学校」とはなにか (岩波ブックレット (No.611))
- 作者: 志水宏吉
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/12/05
- メディア: 単行本
- クリック: 36回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
注 グラフは本を参考にして僕が適当に作ったものです。