すなめりくんの読書ブログ

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高校の教員です。読んで良かったと思う本を紹介していきたいと思います。

ゴリラから幸せな生き方を学ぶ『ゴリラは戦わない』

「オスは背中で自分を語る」

「交尾はメスがオスを誘う」

「石橋を叩いても渡らない」

 ゴリラの魅力が沢山つまった1冊をよければ読んでみてください!

ゴリラは戦わない (中公新書ラクレ)

ゴリラは戦わない (中公新書ラクレ)

 

 

ゴリラの世界は、誰にも負けず、誰にも勝たない平和な社会。石橋を叩いても渡らない慎重な性格で、家族を愛し、仲間を敬い、楽天的に生きる。人間がいつのまにか忘れてしまった人生観を思い出させてくれる「ゴリラ的生き方」とは何か? 京都大学総長と旭山動物前園長が、ゴリラの魅力について存分に語り合った話題の1冊!

 

 

 本作は、京大総長でゴリラ研究を長年してきた山極教授と、閉園の危機にあった旭山動物園を再建した旭山動物園元園長の小菅さんの対談です。

本書は単なるゴリラすげー、という本ではありません。もちろん、そういう面白い内容もたくさんありますが、この本は

 

・ゴリラの生き方から幸せな生き方を考える

・動物園の役割とこれからの発展性を考える

 

ところが話のメインテーマとなっています。

僕が読んで面白いと思った内容を紹介します。

 

 

あえて勝とうとしない、でも負けないゴリラ社会

山際 ある程度年齢がいったシルバーバック(ゴリラ)になると、負けるわけにはいかないから、闘い合うとお互いに噛み合うわけです。(略)激しくやり合うと死に至るケースもある。

 だからメスや子どもたちが仲裁に入るわけですね。そこがゴリラのルール。子どもを背中に乗せたメスや子どもが「まあまあ」と間に入ると、オスたちは戦わずして、一応これで収めておくかと。メスの顔に免じて、子どもたちに免じて喧嘩は止めようとなるわけです。これがゴリラの共存のルールです。だからゴリラには「負けた」という姿勢がない。

小菅 ほお~。

山極 そうすると、最後まで戦わないんですね。ゴリラは勝敗をつけたくないから。結局は「しゃあないな」という形で引き分ける。ここで重要なことは 、両方がメンツを保ちながら引き分けられるということ。だから勝敗をつけなくていいわけですよ。

 それと比べてニホンザルはそうはいかない。絶対に勝敗をつけないと収まらない。そういう場合、周りのニホンザルはどうするかというと、みんな強い方に付いて助けるわけです。

(略)

先ほどの話に戻すと、要するに負けまいとする、というか、そもそも負けるという観念、あるいは社会的なルールというものがない。それはつまり、勝つという観念や社会的ルールもないわけですよ。負けるという観念があれば、勝つという観念があるわけですよ。でも、ゴリラにはそれはない。

 我々人間は、負けまいとする行為を見て、こいつは勝とうとしていると思ってしまう。でも「負けまいとする姿勢がとても立派だと感じる心」は、「勝とうとする、あるいは勝った者を称賛する心」よりも、強いんじゃないかと。

小菅 そうですね。

山極 これ、微妙に違うんですよ。

小菅 違いますね。

 そして、この負けないとするゴリラの姿勢は、相手の上に立つことではなく、相手と同等の立場を築くということだと山極さんは言います。このことに関して、

山極 これはメスのゴリラでもそうです。京都市動物園のゴリラ、ゲンキとその母親のヒロミの二頭のメスがいましたが、ヒロミはものすごい負けん気が強いですから、ヒロミより2倍も大きいオスのゴンが力を振るおうとすると、もう食ってかかるわけですね。

 ゴンは、たじたじとなって、「う~ん」といって引き下がる。オスとメスでは体力が違うわけだから、ヒロミのことをねじ伏せようと思えば簡単な筈なんだが、それをやらない。それだけ、お互い体の差は違っても、対等であるということを凄く意識している。

(略)

人間がそれを見て、「カッコいい」と思うのは、我々人間の社会もそういう道を歩んできたきたからだと思うんです。

 なるほど、僕たち人類は、チンパンジー型社会ではなく、ゴリラ型社会だと。少なくとも、そうなろうと努めているということですね。

しかし、あなたは現実の人間社会がそうなっていると断言できますか?

(僕はぜんぜんできません(笑))

山極 「負けたくない」という気持ちを大事に育てないと。でも、世の中には、「勝ち組になるか、負け組になるか」みたいなことを、大人が気にするじゃないですか。

小菅 そうですよね。最近その価値観が蔓延していますよね。 

 いわゆるサル的な、勝ち負けをつけたがる価値観の蔓延というものによって僕たちの社会はどのように変化したのでしょうか?

山極 だから親は、子どもが幼い頃から勝ち組の仲間入りができそうな「いい学校」に合格するために頑張ったり、負け組になったらダメだからということで、せかせかと子どもを引っ張りまわして、浅ましいですよね。

 もともと、地域社会と言うのは、バランスを取りながら、適正な規模でつくられていったと思うんです。ところがここへ来て、それが崩れて、家族といった、身近な支援組織もだんだんと身の回りから消え去って、近所付き合いもしなくなってしまった。結果、孤独感を味わう人が増えたんじゃないか。

 頼る人がいないから、自分が強くならなければいけないという状況に置かれると出てくるのが、「勝たないといかん」という考え。ある意味、焦燥感に晒されている気がしますね。だから、考えてみれば、「負けなければいい」というのは、余裕がある社会なのですよ。

小菅 そうかもしれません。「負ける」ということで生存権もなくなってしまうような社会だったら、勝ち続けなければいけませんからね。

山極 そうなんですよ。だからそのために、将来に対して「保険」をかけて、自分が負けなくてもいいような準備を、今からしているわけでしょ。

(略)

 だって、人々の信頼関係をきちんと築けていれば、歳を取ったところで心配ないわけだし、保険なんかかける必要もないわけでしょう。そもそも保険をかけるということは、自分が病気になった時、あるいは怪我をした時に、周りの人に迷惑をかけたくないとか、自分が十分なケアを受けられるようにとか、それを心配するわけです。

 ところが、昔はそういうことをみんな心配しなかった。それは、誰かが自分のことも気を配ってくれる筈だという自信があったからです。つまりはみんなが対等だったわけです。

 ところが現代社会は、下手をすると自分が見捨てられてしまうかもしれない。だから今のうちに自分が稼いだお金の一部を使って、その心配を払拭しておきたいという。結局、人を信用できなくなっちゃっているわけですよね。それが、日本社会が孕んでいる落とし穴だと思いますよ。

 

もちろんゴリラの生き方をまんま実践するなんて無理です。しかし、よりよい幸せのために、ゴリラの振る舞いを通して生き方を見つ直すことは大切ではないかと思います。

上記の内容の引用の部分の内容と似たようなことを内田樹さんが以下の本で仰っていました。よければこちらもどうぞ!

sunamerikun.hatenablog.com

 

 

 本書では紹介しきれませんが、本当にゴリラはカッコよかったです。こんなカッコイイやつに僕もなりたい!!ゴリラの魅力が詰まった1冊、よければ読んでみてください。

 

 

 

余談ですが、動物の意外な一面について fun 的な面白さをより強く求めるのであれば以下の書籍をおすすめします。書店で少し立ち読みしましたが、え?マジで!!という内容が盛り沢山で面白かったです。

子供に言えない動物のヤバい話 (角川新書)

子供に言えない動物のヤバい話 (角川新書)

 

 

 

 

【猫が恋のキューピット】 『猫弁-天才百瀬とやっかいな依頼人たち-』

猫に囲まれた弁護士事務所!

猫が恋のキューピット!

心温まる1冊をよければどうぞ!

 

 

猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち (講談社文庫)

猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち (講談社文庫)

 

お見合い30連敗。冴えない容貌。でも天才。婚活中の弁護士・百瀬太郎は猫いっぱいの事務所で人と猫の幸せを考えている。そこに舞い込むさらなる難題。

 「霊柩車が盗まれたので取り戻してほしい」。笑いあり涙ありのハートフル・ミステリー、堂々誕生! 満場一致で第1位、TBS・講談社ドラマ原作大賞受賞作。

 

 

 

  東大法学部主席卒業、頭脳明晰だけど見た目は冴えない、弁護士事務所の黄色いドアを開けたら猫弁先生と猫ちゃんが迎えてくれる。猫ちゃんに囲まれて相談が できる弁護士事務所に舞い込む依頼(ペット関連が多い)をゆる~く解決しつつ、一癖も二癖もある人々と素敵な触れあいが描かれています。

 本書は6つの短編からなっています。それぞれ、特に関係なさそうな出来事が、実は伏線となって物語終盤に交差します。(こういう感じの「ほっこり」する話が僕は好きです)

 本書は、人が死なないミステリー小説です。ミステリー小説といっても、事件を解決する部分にミステリー性はあまりありません。ひょうひょうと事件を解決して いく過程で各短編で散りばめられた伏線が終盤になって素敵に、意外性をもって交差する部分がミステリーちっくという感じです。

 

 

 

ちなみに続編も出てるのでそちらもおすすめです。(僕は2作目までしか読んでないのですが、また読みたいと思います。)

 

猫弁と透明人間 (講談社文庫)

猫弁と透明人間 (講談社文庫)

 
猫弁と指輪物語 (講談社文庫)

猫弁と指輪物語 (講談社文庫)

 
猫弁と少女探偵 (講談社文庫)

猫弁と少女探偵 (講談社文庫)

 
猫弁と魔女裁判 (講談社文庫)

猫弁と魔女裁判 (講談社文庫)

 

『謎の独立国家 ソマリランド』 が面白すぎてヤバい!(笑)

  海賊国家とリアル北斗の拳国家と国境を接していながら、道端の両替所でお店の人が寝ているほど治安が良い、自称国家「ソマリランド」を知っていますか?

 ほんの20年前まで無差別爆撃や氏族間の虐殺で大量の人が殺されていた場所が、今では外務副大臣が大統領の許可なしでオーストラリアの企業と勝手に署名したということで憲法違反ではないか、と野党が追及している平和な民主主義国家に変化したことを知っていますか?

 知れば知るほど謎が深まるソマリアを味わってみてください!

 

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

 

西欧民主主義、敗れたり!!

終わりなき内戦が続き、無数の武装勢力や海賊が跋扈する「崩壊国家」ソマリアその中に、独自に武装解除し、数十年も平和に暮らしている独立国があるという。

果たしてそんな国は本当に存在しえるのか?事実を確かめるため、著者は誰も試みたことのない方法で世界一危険なエリアに飛び込んだ――。

世界をゆるがす衝撃のルポタージュ、ここに登場!

BOOK OF THE YEAR 2013 今年最高の本 第1位

(本書の帯より引用)

 

 

 みなさんはソマリアという 国にどんなイメージを持っていますか?僕は海上自衛隊が派遣される場所で、海賊が暴れているイメージがありました(笑)。

 それは完全に間違いではないですが、ソマリアは、以下の写真の通り、3つに分かれているそうです。

 

赤線より南が有力氏族、政府、反政府、イスラム過激主義などが覇権を争い日々戦闘が行われている「リアル北斗の拳」。赤線の北側が海賊国家「プントランド」。そして、緑線の左側が過去には大量の虐殺事件などが何度も起こったにも関わらず、この20年近くはかなり平和で、極めて民主主義が機能している奇跡の国「ソマリランド」。

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  ソマリランド国連未承認の「自称国家」ですが、かなり平和で、民主主義が正常に機能しているという噂を著者の高野さんは聞いたそうです。しかし、日本にはソマリランドに関する研究がほぼない状態。そこで、本当なのか、実際に行ってみたというルポです。

結果どんな感じだったのか?

 

・住民のソマリ人は傲慢で、いい加減で、約束を守らず、荒っぽい!(笑)

・夜8時過ぎでも外国人が1人で歩くことができる!(奇跡)

・街中に銃を持った民兵がほぼいない!(奇跡)

・街中の市場にある両替所(札束が大量に積み上げられている)の店員が寝転んでいる(奇跡すぎ!!。日本なんか銀行がどれだけ厳重に警備されているか考えたら、日本より遥かに治安が良いともいえる)

・カート(合法ドラッグ)をみんなやりまくる!(笑)

・日本より二院制が遥かに機能している!(奇跡すぎ)

・自称国家なのに自国の通貨がある!(奇跡すぎるらしい!)

 ・二十数年前、大量に虐殺が起こっていた時代、長老たちの話し合いで、みんなが武器を放棄して(長老たちが回収して)平和になった!(奇跡)

 

 

 日本にいる僕らからすると、この凄さがピンとこないけれど、上記したことを外国・国連の力を一切借りず(本書を読めばわかるけれど、外国が余計なことをしなかったからこそ出来た)これらを実現してしまった!!

 もう一度確認すると、氏族間で大量に殺し合いをしていた状態から、アフリカ最高レベル(というか読めばわかるけれど、日本よりずっと政治が機能している)になった!しかもすぐ近くには「リアル北斗の拳」国家が暴れているにも関わらず!!

 

 

 僕は、憲法学者の木村草太さんがすすめる人生最高の10冊でこの本が紹介されていて興味を持ちました。僕のブログでは今回はあまり触れませんが、民主主義、政治、中東の政治問題に外国がどのようにコミットするべきか、など政治を考える上でも大変興味深い本になっています!

 最後に、いかに自称国家ソマリランドの政治が成熟しているか、エピソードを1つ紹介してこの記事を終わりたいと思います。

 

 

ソマリランドの議会とグルティ(長老たち)は、パッと見は日本の衆議院参議院のような関係にある。新しい法案を作るとき、まず議会で討議して可決されるとグルティに送られる。グルティでも可決されれば法案は成立するが、グルティで否決されると議会に差し戻される。(略)

 ソマリランドではグルティの賛意を得られなければ法案は絶対に成立しない。そこで法案は議会に差し戻され、修正を加えられてから、あらためてグルティに送られる。そこで可決すれば成立し、否決すれば再度議会に戻されるか廃案となる。(略)

 議会が可決した法案をグルティが否決するというのはどういう場合なのかとアブドゥラヒ先生に訊くと、こんな例を教えてくれた。

 この年(2011年)、与党が「女性の政治進出を促すため、議席のうち30を女性に割り当てる」という法案を提出し、議会で可決されたが、グルティでは否決、結局廃案となった。

 「それは保守的すぎるんじゃないですか?」私が眉をひそめると先生は首を振った。

 「特定のグループに議席の割り当てを行ってよいとは憲法のどこにも書いていない」

 先生が言うには「われわれも女性には政治に参加してほしい。でも議席の割り当ては憲法違反だ。与党はそういったことを深く考えず、次の選挙のために人気取りをやっただけだ。もしこの法案が通れば女性の票がたくさんとれるからな。でも、もし本気で女性の議席割り当てをやりたいなら、まず憲法を変えなければいけない」

 長老たち半端なく凄いですよね!(笑) アフリカにしては民主主義が機能しすぎているってレベルじゃなくて、もはや羨ましいってレベルです…。 

  とにかく全てにおいて衝撃を受けますが、民主主義というものも僕たちは日本的(西欧的)なものが常識として認識していますが、それがひっくり返されます!

 

 

このクソ面白い本を是非1人でも多くの方に読んでもらえればと思います。

 読むと、未開の地を旅したような気分になれます!