街場の共同体論【内田樹】
内田樹さんと一緒に、学歴社会、競争社会、今の教育問題など、社会問題について考える1冊。
この本は、
家族論、地域共同体論、教育論、コミュニケーション論、師弟論など、「人と人の結びつき」のありかた
について、書かれたもので、内田さんの言いたいことは、
「おとなになりましょう」、「常識的に考えましょう」、「古いものをやたら捨てずに、使えるものは使い延ばしましょう」「若い人の成長を支援しましょう」といった「当たり前のこと」
と非常にシンプルです。しかし、今の日本は
この「当たり前のこと」が通じない世の中になりつつある
と、内田さんは危機感を感じておられます。
そこで、内田さんと一緒にゆっくりと身の回りの問題を考えてみようじゃないか、という本です。
・「少年犯罪が増えている」という嘘
・「コンビニの店員」化する教師たち
・子供が年収で大人を値踏みする社会
・「フェアな競争社会」のピットフォール
・フェミニズムと資本主義は相性がいい
などは凄く面白かったです。
大学入試の評論文に最も多く使われている人の1人だと思いますので、高校生にも読んでもらえたら、と思います。
その中でも、特に「競争社会」について書いた文章について紹介をします。
内田さんは、「フェアな競争」という言葉に安易に流されないようにすべきと警鐘を鳴らします。一見、最もらしく聞こえるけれど、長期的なタイムスパンで見れば集団の存続を土台から脅かすリスクがあると指摘しています。そのリスクについて、
成員みんなが「勝つものが総取りし、敗者には何もやらない」というルールで「フェアな競争」を続けていれば、そのような社会では、自己利益以外の価値、つまり公共的な価値、例えば「自然環境の保全」や「社会インフラの整備」や、最終的には「国を護る」義務さえ人々は感じなくなる
と警告します。そして「フェアな競争」において圧倒的アドバンテージを持つのは、
自分が居住する予定のない場所や、自分が死んだあとの世界はどうなっても構わないと思いきれる人間
といい、
自分の工場が出す排気ガスが大気を汚染し、廃水が水質を汚染すると「みんなが迷惑する。将来の世代に禍根を残す」と思ったら、公害規制のためにそれなりのコストを負担しなければなりません。でも、「他人のことは知らない。先のことなんか知らない。今儲かればいい」という経営者には、そのコストが免ぜられる。「良心的な企業」と「利己的な企業」が競走した場合、コスト削減努力では「利己的な企業」に必ず軍配が上がります。企業が負担すべきコストを「他人」や「未来の人たち」にツケ回ししているわけですから、そちらのほうが価格競争では勝ちます。
と、少し極端な例えにも感じますが、ブラック企業の問題点の本質を表しているようにも感じます。加えて、
「フェアな競争」のピットフォールはそこにあります。同時代の競争相手からだけではなく、そもそも競争に参加していない人、できない人たちからもパイを奪ってしまう。たとえ海洋を汚染し、大気を汚染し、森林を切り拓き、湖沼を枯渇させても、未来の世代がそれでどれほど苦しむことが予想されていても、「今、ここで競争に勝ちたい」と思っている人間には、誰も「やめろ」と言えません。「やめろ」という静止が効くためには、「勝者以外の人間にも地球上の資源の正当な分配に与る権利がある」ということについての社会的合意が必要です。
内田さんの文章からは、自然資源や社会インフラを社会で分け合うことの重要性が伝わってきました。「地域の共同体」での助け合い、そして、「身の程に清貧を楽しむ」といった日本の伝統であったはずのものへの深い考察を感じました。