すなめりくんの読書ブログ

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高校の教員です。読んで良かったと思う本を紹介していきたいと思います。

【高校生・大学生におすすめ】 沖縄米軍基地・福島原発事故について考えるきっかけにしてほしい1冊

 地震大国の日本で、国民の約8割が脱原発に賛成という世論調査がある中で、なぜ原子力発電をやめることができないのか?

 沖縄の人があれだけ抗議・怒りの声を挙げているにも関わらず、なぜアメリカ軍基地は沖縄からなくならないのか?

 この2つの問題について、共通の問題を見出して、鋭く分析をした1冊です。

 

  

 こういう政治についての本というのは、必ず筆者の立場があります。筆者の思想があります。これを書いている僕にもあります。(だから、この本を批判的に読むこと、このブログを批判的に見ることはすごく大切です。だって、特定の立場に誘導しようとする意図が隠されている可能性が十分にあるからです。)

 でも僕が、この本を高校生や大学生、日本中の人に推薦したいと思う理由は、筆者の思想が素晴らしいからで、その思想をたくさんの人に植え付けたいからではありません。

 この本が問題提起していることが、多くの日本人にとって衝撃的な内容だからです。

一般に、政治勢力には大きく分けて2つがあります。

1つは、憲法9条を変えたくないという立場(左派、進歩主義、リベラル、左翼などと呼ばれます)

もう1つは、変えたいという立場です。(右派、保守主義、右翼などと呼ばれます)

 

 この両者にとって、ともに衝撃的な(もちろん僕よりはるかに知識がある人にとっては当たり前のことなのかもですが)内容だからです。著者は、著者自身で左派よりと言っていますが、読んで辛い思い、衝撃をより強く受けるのは、たぶん左派の方だと思います。著者は既存の左派に対して痛烈に批判をしているからです。(実際のところ、著者は憲法9条を変えるべき、と言っていますし)

では、右派の方は、気持ちよく読書をできるかと言うと、必ずしもそうではありません。

 

でも気持ちよく、主張にうんうんと頷いて読める本を読む価値というのは僕はあまりないと思います。読書の魅力とは、自分の考えを強化するものにあるのではなく、自分の価値が揺らぐようなものにこそあると思うからです。

 

この本は、国防という重要な問題をアメリカに丸投げして、その負担を沖縄だけに押し付けてきた罪に対して無自覚な本土の僕たちに対して、大きな問題提起をしています。

 

 沖縄のことあんま知らねえわ、とか原発?何それって人に対して、知るきっかけとして読んで欲しいのはもちろん、そこそこ政治に関心があって自分の政治的ポジションを自覚している人にも読む価値が大きい1冊だと思います。

 

 

 

政治を学ぶためには、政治の仕組みについて定めた憲法を学ぶことがとても重要です。(だから中学校3年の公民で長々とやるのですね…。)

憲法を学ぶ上で、日本一わかりやすい本を紹介しておきます。(日本一というのは、もちろん僕の主観ですが)

 

sunamerikun.hatenablog.com

 

【テンポの良いおすすめの推理小説】 ゲームの名は誘拐(東野圭吾)

 ゲームの名は誘拐

作者:東野圭吾

ゲームの名は誘拐 (光文社文庫)

ゲームの名は誘拐 (光文社文庫)

 

敏腕広告プランナー・佐久間は、クライアントの重役・葛城にプロジェクトを潰された。葛城邸に出向いた彼は、家出してきた葛城の娘と出会う。「ゲームの達人」を自称する葛城に、二人はプライドをかけた勝負を挑む。娘を人質にした狂言誘拐。携帯電話、インターネットを駆使し、身代金三億円の奪取を狙う。

(裏表紙より引用) 

 

  「白夜行」や「容疑者Xの献身」などいわゆる『重厚な本格派推理小説』とはちょっと違います。僕は、ガチガチ推理小説は好きなんですけど、疲れるので最近はあまり読まないんです。

 

 この小説は、コアな推理小説好きじゃなくても気軽に万人が楽しむことができる推理小説です。魅力は、テンポの良さ(スイスイ読める)と娯楽性の高さ(ワクワクドキドキ)

  特にこの作品の大きな魅力要素となっているのが人質役の「樹里」。小悪魔とはこの子のことか!(笑)という感じで、言動にドキドキされられました!

恋愛要素が入ってるミステリーが僕は結構好きなんですよね。

 

 

 テンポが良いけど、内容もしっかりしてて、ワクワクドキドキできる、この本はすごくオススメです!

この小説が良かったという人は、たぶん「仮面山荘殺人事件」もハマるはずです!

sunamerikun.hatenablog.com

 

街場の共同体論【内田樹】 

内田樹さんと一緒に、学歴社会、競争社会、今の教育問題など、社会問題について考える1冊。

潮新書 街場の共同体論

潮新書 街場の共同体論

 

 

この本は、

家族論、地域共同体論、教育論、コミュニケーション論、師弟論など、「人と人の結びつき」のありかた

について、書かれたもので、内田さんの言いたいことは、

「おとなになりましょう」、「常識的に考えましょう」、「古いものをやたら捨てずに、使えるものは使い延ばしましょう」「若い人の成長を支援しましょう」といった「当たり前のこと」

と非常にシンプルです。しかし、今の日本は

この「当たり前のこと」が通じない世の中になりつつある

と、内田さんは危機感を感じておられます。

 

そこで、内田さんと一緒にゆっくりと身の回りの問題を考えてみようじゃないか、という本です。

 

・「少年犯罪が増えている」という嘘

・「コンビニの店員」化する教師たち

・子供が年収で大人を値踏みする社会

・「フェアな競争社会」のピットフォール

フェミニズムと資本主義は相性がいい

などは凄く面白かったです。

大学入試の評論文に最も多く使われている人の1人だと思いますので、高校生にも読んでもらえたら、と思います。

 

 

その中でも、特に「競争社会」について書いた文章について紹介をします。

内田さんは、「フェアな競争」という言葉に安易に流されないようにすべきと警鐘を鳴らします。一見、最もらしく聞こえるけれど、長期的なタイムスパンで見れば集団の存続を土台から脅かすリスクがあると指摘しています。そのリスクについて、

成員みんなが「勝つものが総取りし、敗者には何もやらない」というルールで「フェアな競争」を続けていれば、そのような社会では、自己利益以外の価値、つまり公共的な価値、例えば「自然環境の保全」や「社会インフラの整備」や、最終的には「国を護る」義務さえ人々は感じなくなる

と警告します。そして「フェアな競争」において圧倒的アドバンテージを持つのは、

自分が居住する予定のない場所や、自分が死んだあとの世界はどうなっても構わないと思いきれる人間

といい、

自分の工場が出す排気ガスが大気を汚染し、廃水が水質を汚染すると「みんなが迷惑する。将来の世代に禍根を残す」と思ったら、公害規制のためにそれなりのコストを負担しなければなりません。でも、「他人のことは知らない。先のことなんか知らない。今儲かればいい」という経営者には、そのコストが免ぜられる。「良心的な企業」と「利己的な企業」が競走した場合、コスト削減努力では「利己的な企業」に必ず軍配が上がります。企業が負担すべきコストを「他人」や「未来の人たち」にツケ回ししているわけですから、そちらのほうが価格競争では勝ちます。

と、少し極端な例えにも感じますが、ブラック企業の問題点の本質を表しているようにも感じます。加えて、

「フェアな競争」のピットフォールはそこにあります。同時代の競争相手からだけではなく、そもそも競争に参加していない人、できない人たちからもパイを奪ってしまう。たとえ海洋を汚染し、大気を汚染し、森林を切り拓き、湖沼を枯渇させても、未来の世代がそれでどれほど苦しむことが予想されていても、「今、ここで競争に勝ちたい」と思っている人間には、誰も「やめろ」と言えません。「やめろ」という静止が効くためには、「勝者以外の人間にも地球上の資源の正当な分配に与る権利がある」ということについての社会的合意が必要です。

内田さんの文章からは、自然資源や社会インフラを社会で分け合うことの重要性が伝わってきました。「地域の共同体」での助け合い、そして、「身の程に清貧を楽しむ」といった日本の伝統であったはずのものへの深い考察を感じました。